北軽井沢 一匡邑

岩波書店の会長小林勇氏の著書「山中独善」中より黒須巳之吉についての記載がある部分の抜粋         一匡邑の胡桃の木。1970年夏7月29

「ところで、北軽では胡桃は入手できない。そこでぼくは代わりに牛乳を使った。もっとも牛乳はでき上がったのにかけただけではまずかろうと考えて、茄子がよく煮えたときに鍋へ入れてみた。胡桃とはちがうが、よい味になった。牛乳をつかってしまったから、精進料理とはいえないだろう。
 去年の夏の終わりごろ、一匡邑に黒須老博士を訪ねたことがある。あそこには胡桃の木がたくさんあるから、多分実もあるだろうと思って、管理所の小母さんに聞いてみた。果してあるという、ぼくはしめたとばかり少しわけてくれとたのんだ。小母さんは困惑の色をうかべて、冬のリスのたべ料にとっておくのですからといった。ぼくはすぐ申し出を撤回した。優しい小母さんよ。幸福なリスたちよ。」